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妊娠判明後の退職合意が否定された事例

2017年12月22日

経営者と従業員との「話し合い」は対等ではないという事例を紹介します。

平成29年1月31日に東京地方裁判所立川支部で判決のあった事例は以下のような事例でした。

舞台は、建築物の測量などを行うT社。T社につとめる女性社員のAさんが妊娠していていることがわかります。Aさんの仕事は現場作業で体力的にも負担があるため、Aさんは今後の仕事をどうするかT社の代表取締役B氏に相談します。Bさんは、自分が経緯する派遣会社P社への派遣登録を勧め、Aさんはこれを受けて派遣社員として働き出します(なお、Aさんは別の副業も継続しており、そこからの収入もあったようです。またT社は「AさんはP社に勤めだしたのだから当然T社は退職した」と考えて明確な退職手続きはとっていませんでしたが、AさんもT社にもあまり連絡は入れていません。)。
T社では、Aさんの派遣会社登録を機に、Aさんを退職として扱っていました。

しかし、これを知ったAさんは、出産後、退職していないとしてそれまでの賃金と、不当な解雇を受けたとして慰謝料を求めて訴訟を提起したのです。

裁判所は、AさんとT社のやりとりを細かく検討した上で、Aさんは自主退職もしていないし、AさんとT社との間での退職の合意もできていないと指摘した上で、「Aさんが自由意思に基づいてT社を退職したと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在することを十分に立証しているとはいえない」と断定し、Aさんの主張を認め、Aさんに賃金を支払うことなどをT社に命じたのです。
T社としては、Aさんから仕事を続けることが困難だとの相談を受け、生活保障のために別の職も紹介し、しかもAさんもほとんどT社に連絡してこず、実際に別の仕事もしていたにもかかわらず、「AさんはT社を辞めたわけではない」という裁判所の判断には首をかしげる方も多いでしょう。
しかし、「あいまいな場合、従業員に味方する」のが裁判所の傾向です。一般的に裁判所は「会社は親、従業員は子」と考えている節があり、会社の「言わなくても当然わかっていたはずだ」という主張は、裁判所はほとんど受け入れてくれないと考えた方が賢明です。
この件でも、常識的に考えれば、「AさんはT社を辞めている」と考えられそうですが、裁判所は、T社が「Aさんに勘違いもさせない」程度にきちんとした対応(T社を辞めることになると明示する、Aさんにわかるように退職手続きを進めていく等)をすることを要求しているのです。

一方で、従業員の場合には「辞めます!」と啖呵を切って会社を後にしたような場合でも、裁判所が「それは本気ではなかった」と言って、「辞めます!」という意思表示がなかったと扱うこともあります。

「会社と従業員の話し合いは対等ではない」「会社は十分な理論武装が必要だ」ということを、明確に意識してください。

チェックポイント
  • 会社は従業員に「明確に伝えること」が必須
  • 従業員が何か言っても「それを言った合理的根拠」がないと「言っていないことになる」場合もある

弁護士法人フォーゲル綜合法律事務所
弁護士 嵩原 安三郎