社長と1人だけの会社は別ですが、会社には「部長」「課長」などの「職位」があることが通常です。
また、それとは別に、給与額を決める指標として、「1等級」や「2級」などの「職能資格制度上の等級」が定められている会社もあります。
しかし、必ずしも上位の「職位」や「等級」にある社員が、下位の社員より優秀であるとは限りません。期待して「職位」や「等級」を上げたものの、その期待通りの活躍をしない社員は歯がゆいものです。ただ、大規模な会社であれば周囲が何とかフォローできても、それほど大規模でない会社の場合、一人の「職位や等級にみあう働きをしない社員」の存在が、会社全体に悪影響を及ぼす例も多く見られます。
そのような場合、例えば、所長を一般社員にするなど職位を下げなければならない(降格)と考えるのはもっともです。また、その場合、併せて「(職能等級制度上の)等級」を下げ、給与も減額したいと考えるのももっともです。
このような「降格」「降級」は自由に行えるのでしょうか。
結論から申し上げますと、自由に行うことはできず、一定の条件があります。
まず、「部長」や「所長」などの職位を下げる「降格」ですが、「降格」には、
A:悪いことをした罰として与える「懲戒処分としての降格」
B:適材適所の考えから経営判断として行う「人事権行使としての降格」
の2つがあります。
まず、A:悪いことをした罰として与える「懲戒処分としての降格」については、以下の条件を満たす必要があります。
①就業規則上の根拠が明確にあること
②就業規則上の「降格」の条件を満たすことがわかる「客観的な証拠」があること
このうち、②は問題が発生してからの対応でも足りるかもしれませんが、①については問題が発生してから慌てて対応しても既に手遅れです。あなたの会社の就業規則には「降格の明確な根拠規程」はありますか?すぐに確認して下さい。
また、B:「適材適所の観点から行う人事権行使としての降格」の場合、上記と異なり、就業規則上の根拠なくとも認められるケースがあります(神戸地方裁判所平成3年3月14日判決)。しかし、「併せて賃金も下がるケース」や「当該従業員が会社ともめており、報復人事ととられかねないタイミングでの降格」などの事例では、裁判所に「人事権の濫用」と判断されるケースがありますので、やはり慎重な対応をしなければなりません。
次に、給与額を決める基準となる「(職能資格制度上の)等級」を下げる「降級」についてですが、「降級」はさらにハードルが高くなります。通常、「等級」は「労働者が経験を重ねたことで職務遂行能力が上がったことを評価したもの」と考えるのが一般的です。としますと、「突然それまでの経験を失って職務遂行能力が低下する」というケースはあまり考えられませんから、特別な事情がない限り、「等級が下がる」というのも理屈としてはおかしいということになります。ですから、あえて「降級」する場合には、この点の説明がきちんとできることが必須となります。また、上記の通り、通常は「等級が下がるのはおかしい」わけですから、敢えて等級を下げるには、通常必ず就業規則上の明確な根拠が求められます。これらの要素を満たさないまま、「等級」を下げ、減給してしまうと、やはり裁判所に「人事権の濫用」と判断されて降級(=減給)が認められないケースもありますので、ご注意下さい。
弁護士法人フォーゲル綜合法律事務所
弁護士 嵩原 安三郎