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元従業員からの「未払い残業代請求」は「固定残業代制度」の導入で足りるか

2018年2月23日

退職した元従業員が会社に対して「未払い残業代(時間外手当)」を請求する裁判を起こすケースが増加しており、これは経営者にとっては頭の痛い問題です。中には全く経営者に同情できない事例もありますが、残業代の問題について、「作業効率が悪く、無駄に時間のかかる社員ほど給与が高くなることについて納得できない。少しでも公平にしたい。」という経営者の声も聞きます。
その解決策として一部で提唱されているのが「固定残業代(時間外手当)制度」の導入です。

これは、一定時間分の残業代を残業の有無にかかわらず全ての従業員に支払っておくもので、各社ごとに「営業手当」「サービス手当」など様々な名前がついています。
しかし残念ながら、実際には制度設計はとても難しく、「単に導入すれば足りる」ものではないにもかかわらず、制度設計を間違えたまま導入し、あとで裁判所に否定される事例が後を絶ちません。「自称専門家」が誤った指導をする例も非常に多く見受けられ、就業規則(賃金手当)の規定の仕方の不備が原因の敗訴例も多数あります。

多数ある「誤った固定残業代制度を導入してしまった事例」のうち、先日、判決のあった「ビーエムホールディングス事件」(東京地裁平成29年5月31日判決)をご紹介します。

この事案で会社は「月82時間相当分」の固定残業代を「サービス手当」などの名目で支払っていましたが、これについて裁判所は「月80時間を超える長時間の時間外労働を恒常的に行わせることについて、労働者が合意したとは認めがたく、仮にそのような合意をしたとしても、公序良俗に反し無効である」として、「全額残業代として支払った」という会社の主張を認めませんでした。

このように、裁判所はあまりにも長時間分の時間外手当については否定する傾向があり、ほかにも「ザ・ウインザー・ホテルズインターナショナル事件」(札幌高裁平成24年10月19日判決)などもあります(ただ他方で、長時間分の時間外手当を有効と判断した事例もあり、まだまだ裁判所の判断から目が離せません。)。
このような「あまりに長時間分に相当する残業代の設定」によって効力が否定される事例のほかにも「固定残業代の金額の設定の不備」により、せっかく支払っていた「固定残業代」が否定される事例があります。

「固定残業代(時間外手当)制度」の導入に際しては、やり方を間違えますと、会社にとってメリットどころか、巨額の負担になって跳ね返ってきてしまいかねません。
「固定残業代(時間外手当)制度」を導入している経営者さん、ご自身の会社の賃金規定を今一度ご確認下さい。

弁護士法人フォーゲル綜合法律事務所
弁護士 嵩原 安三郎