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有期雇用社員の「無期転換制度」が始まります

2018年3月21日

1 有期雇用社員の「無期転換制度」が始まります!
2013年4月1日に労働契約法第18条が施行されてから今年でいよいよ5年が経過します。
既にいろいろな報道もされ、お聞きにはなっていると思いますが、今年4月1日以降は、同じ従業員(労働者)との間で期間のある雇用契約を繰り返し、合計の契約期間が5年を超えた場合、その従業員が希望すれば、その従業員との雇用契約は「期間雇用(有期雇用)」ではなくなり、「期間のない雇用契約(無期雇用)」になります。
これを「無期転換制度」と呼んでいます。
少し乱暴にいうと、1年ごとに契約更新していた従業員(便宜上「契約社員」といいます)がいて、その契約社員が、契約期間が合計5年を超えたところで「正社員にしてください」と会社に申し入れれば、自動的に正社員になるイメージです。
この「契約期間」は、2013年4月1日以降から数えます。
たとえば、2013年(平成25年)4月10日に有期雇用契約(たとえば契約期間1年とします)を締結して新たに雇い入れた契約社員がいた場合、「平成25年4月10日」を始期にして数えます。ですから、その後も1年ごとに契約更新していたとすると、今年(平成30年)4月9日の期間満了で合計5年となります。そこで今年も契約更新するとしますと、今年4月10日からの新たな契約期間中、その契約社員は「無期転換権」を手に入れます。契約期間中にその契約社員が「私を無期雇用にしてください」と会社にいえば、平成31年4月10日から無期雇用社員となるわけです。
また、たとえば、平成24年5月1日にやはり1年の期間で期間雇用した契約社員がいて、平成25年5月1日に契約更新した場合、契約期間は「平成24年5月1日」ではなく「平成25年5月1日」から数えます。そのため、平成26年5月1日以降も毎年契約更新していれば、平成30年5月1日の契約更新で合計5年を超えることになり、それ以降、その従業員は「無期転換権」を持つことになるわけです。
契約更新を続けているということは、その契約社員は会社にとって必要な人材ということでしょう。しかし一方で、その方を正社員(無期雇用社員)にしていないということは、何らかの会社の事情があるはずです。
しかし、今後は、契約社員の契約期間が合計5年を超えれば、会社はその契約社員を無期雇用社員にしなればなりません。
もちろん、契約社員側が希望しなれば別です。しかし、よほどの事情がない限り、「契約社員のままがいい」という方は多くはないと考えられます。

2 合計5年で契約終了(更新なし)とできるか
経営者の方の中には、「契約期間は5年まで。それを超える更新は一切しないのであれば、全く問題はない」と考えておられる方も少なくありません。
しかし、そもそも「これまで契約更新を繰り返していたのに、5年で契約終了ということが簡単に認められるか」という「大きな壁」があります。
雇止めの問題です。
裁判所は、契約更新を何度も繰り返していた場合、使用者の都合で一方的に「今回は契約更新しません」と言ってもそれを認めない(つまり、契約更新を強制する)というケースが少なくありません。
裁判所は、「これまで自動更新ではなかったか」「前回更新の際に『次回は更新しない』などと説明しているか」「契約を更新しないことをいつ伝えたか(次の就職先を見つける十分な時間を与えたか等の検討のため)」などの要素を考慮し、「契約を更新しないことが認められるか」を判断しています。特に今年以降は「5年で契約を終了する」とする例が急激に増えると考えられますが、その場合、裁判所は「無期転換権を行使させないために契約を更新しなかった」と判断し、「そのような目的での契約不更新は認められない」と考えることが強く予想されます。お気を付けください。

3 無期転換社員は正社員か?
ところで、無期転換制度について、はじめに「契約社員が正社員になるイメージ」と説明しました。しかし、それは正確ではありません。
実は、大きな問題は、「無期転換制度により無期雇用になった社員」(無期転換社員といいます)は、就業規則が予定している「正社員」ではない場合が多いということなのです。
もし、御社が無期転換社員を「正社員」とするのか否かを就業規則等で予め決めておかなければ、無期転換社員にとって都合がいい場合には「自分は正社員である」と主張され、都合が悪い場合には「正社員ではない」と主張される恐れがあるのです。
今、実務家の間ではこの点が心配されています。
たとえば、通常、就業規則には「定年」の規定があると思います。そのため、就業規則の適用がある社員には「定年」があることになるわけです。
しかし他方、多くの就業規則は「正社員に適用する」となっています(契約社員用に「契約社員就業規則」が別に用意されている例も多くあります)。としますと、仮に「無期転換社員は正社員ではない」となってしまうと、無期転換社員には就業規則の適用がないことになり、「無期転換社員には定年がない」という結論になってしまう恐れがあるのです。
では、就業規則を修正し、「無期転換社員にも就業規則を適用する」との規定を新たに付け加えればいいのでしょうか。
それでもいいと思います。
しかしその場合、「退職金」などの待遇を正社員と全く同じでいいのか(たとえば、退職金計算の始期は「入社時」か「無期転換時」か等)を検討しておく必要があります。

4 まとめ
「無期転換社員」は単に「有期雇用社員が無期雇用になる」だけでなく、いわば「新たな社員区分」が生まれるものです。
御社ではどう位置づけるのか、しっかりとした検討を行ってください。

弁護士法人フォーゲル綜合法律事務所
弁護士 嵩原 安三郎